「たった一つの抱擁」レヴュー 1

ブログで知り合ったセネカさんという方(男性)が、私の本「たった一つの抱擁」を読んで、感想を書いてくださいました。


               **************

読み終わってしばらく「……。」

一気に読んでしまったせいだろうか、綾子さんの思いが、それは圧倒されるほどおびただしい量の思い、それが私の内部に哀しみとして、澱のように残っている。
漠とした思いではあるが、同じではないにしても、夫の立場、思いとしてこのようであったことがあるように思う。
わずかな気持ちのズレ、自分の側にたってのみの思いにとらわれ、もはやそれは避けられず静かで冷たい戦争をはじめてしまう。

一番身近な男と女がお互いの存在を痛いほど切に求めていてなお、夫と妻の思いにこれほどの遠い距離があることを、綾子さんの「一生懸命な悪戦苦闘」によって気づかされました。

最後に、この言葉を読み救われた気がする。

「でも、奇跡は起こらないとは限らないわ。そして、それは神様のおかげなんかじゃない。奇跡を起こすのは、いつでも私たち自身の勇気と思いの強さよ。」


この小説とても重たかったです。
「お気軽に読んでいただけるだけで嬉しいです」とおっしゃっていましたが、とてもとても。
でも、読んで良かったと思います。

               **************


というお言葉をいただきました。「読んでよかった」と言われることは著者冥利に尽きます。
今、出版してよかったと、しみじみ思えます。

どんな感想を持っていただいてもいいのです。読んでいただけて、その方の心に何らかの波紋を広げることができれば、それが著者としての私の幸せのすべてです。 
セネカさんに心から感謝いたします。 ありがとうございました。

*初めてこのブログにお越しの方は、「たった一つの抱擁」の記事をご覧になってからお帰りください。

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「たった一つの抱擁」 冒頭

今日は、「たった一つの抱擁」の冒頭部分をご紹介します。

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 あっと言う間に四十九日が過ぎていた。狐につままれたみたいに、どこかぼうっとしたままの父を促して、
そろそろ母の遺品を整理しようと思ってやって来た。
ついでに、それを口実にして二~三日この家に泊まっていくつもりでもあった。
些細なことですれ違ってから気まずい空気が流れ始め、意地の張り合いが始まると更に複雑化して、この頃、夫との間はいつもぎくしゃくしていた。
息苦しくなってきた私は避難場所を捜していたのだ。
 実家は母が生きていた時と何も変わってはいなかった。家具も小物もカーテンも、何もかもそのままで、
ただ、散らかっていることだけが、母の不在を物語っていた。
父が一階の事務所で仕事をしている間に部屋を綺麗に掃除すると、何もかも元どおりになった。
今にもその辺から母がにこにこと顔を出して、「明日香ちゃん、おかえり。」と呼びかけてくれそうな気がした。
母はいつもたいていキッチンにいた。
母がよく座って家計簿をつけていた、造り付けの小さな家事机の前に座ってみた。
窓から外の景色がよく見える。母が毎日のように眺めていた風景。
でも、こうして母のいた場所から見ると、私にはどこか見慣れない風景だった。
同じ家から見たのでも、私が毎日自分の部屋から見ていたのとは違う。
窓を開けてみる。春らしくなった風がふんわりと流れ込んできた。母の匂いがするようだった。
引き出しを開ける。ここも、生前のまま。
 その時、ふと、一冊の古い大学ノートが目に止まった 。
「何だろう?」
綺麗に洗って畳まれたエプロンの下に、隠されるようにしまわれていたノート。
開いてみると、それは母の日記だった。
 何気なく読んでしまった最初の一ページで私の目は釘付けになり、心臓がドキドキして、次々とページを繰らずにはいられなくなってしまった。
そこには、私のまったく知らなかった母がいた。

   五月二十九日

 私は、きょうもベランダに立って、無意識のうちに空を眺めていた。夏の気配が広がる五月の末の空。きのうも、おとといも、同じ場所に立って待っていた。風が吹いてくるのを。
どんな風でもいい。私の五感を揺さぶってくれる風でさえあれば。
 ベランダの下に見える小さな畑と、それに続く果樹園の間から、かすかに青葉の匂いを含んだ風が柔らかく吹いてきた。干したばかりの洗濯物を揺らし、べランダに置いた鉢植えのサフィニアを震わせた。
 でも、それはやっぱり、私の体の底に潜む苛立ちを吹き浚ってくれる風ではなかった。
私は失望し、空を仰いだまま、小さな溜め息をついた。
 遥か上空から吹き降りて来る見知らぬ風に肌を吹きさらし、清涼な空気を体一杯に吸い込んで、鳥のように舞い上がりたい。
やがて、私の体は透き通り、重力から解き放たれて宙を漂う。どこまでも、ずっと・・・・・。
ばかげた空想。そして、狂おしいほどの願望。
 けれど、風はいっこうに吹いては来ない。
もう何日も、何ヶ月も、何年も、私はこうして風を待ち続けている。

   六月十八日

 今年になって夫と・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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ジャンル : 本・雑誌

「たった一つの抱擁」紹介

二年前に出版した自著ですが、もう書店の店頭には置かれておらず、皆様に知っていただく機会もありませんので、ここでご紹介させていただきます。

   「 たった一つの抱擁 」 緋野晴子 (文藝書房) ¥1260

愛し合って結ばれたはずの夫婦にもいつしか暗い影が忍び寄り、男女の間はやがて深い溝に隔てられていく。
これは、いつの間にか乖離してゆく夫婦の愛と性を、妻の側から見つめた作品です。
浮気や不倫といった特別な行動に飛び出すわけではない、ごく普通の夫婦が抱える苦悩・・・・・。
壊れかけた夫婦関係を立て直し、失われた抱擁を取り戻したいと苦悶する、妻の心の葛藤を描いています。
妻の心理にリアルに迫るため、日記の文体をとりました。
女とはどういうものか? 男とはどういうものか? 
夫婦が愛し合い続けるとは、どういうことか?
世代を越えて繰り返されてきた妻たちの苦悩に、まっすぐ向き合った一人の妻は・・・・・やがて幾つかの奇跡を起こし、そして、・・・・・・。
妻であるあなたにも、夫であるあなたにも、読んでいただけたらと思います。

  ネット書店: amazon・楽天ブックス・boople・紀伊国屋書店・
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  興味を持たれた方は是非、お読みになってみてください。
   ( bk1 には画像と内容説明が、
   7&Y と 楽天ブックス には読者のレビューが載っています。)

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プロフィール

hinoharuko

Author:hinoharuko
銀河の旅人セイラです。私の見た地球人の姿と、それを描いた小説をめぐって、気ままなお話をしていきます。
私の本のご紹介・・・① 「たった一つの抱擁」(文藝書房)…この星の男女(夫婦)の不可解な生態を描き出した作品。 ② 「沙羅と明日香の夏」(リトル・ガリヴァー社)…神秘の奥三河を舞台にした、二人の少女のひと夏の経験。生きることの深奥を見つめた青春小説。(東愛知新聞社主催「ちぎり文学奨励賞」受賞)

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